読書日記

読書感想「走ることについて語るときに僕の語ること」

この本は日本を代表する作家の村上春樹氏が、執筆活動以外のもう一つのライフワークである、「走ること」について書いたメモワールです。

毎日平均10kmを走ることを日課にしつつ、調整を重ねてアメリカでのフルマラソンに何度も挑戦し完走しています。また近年はトライアスロンもしているとのこと。走るということが、彼の執筆を支えている面も大いにあるようで、走るということと書くことの関係性についても触れています。

走ることは、彼にとってはなんとなく見つけた自然な行動だったそう。自然に走ることを選び、走り続ける中で、自分の体や心が走ることに合っていたという事を後付けで理解していったといいます。
村上さんの、走っていく中で少しずつ動く事になじんでいく筋肉の質や走るときの頑張り方、集中の仕方が長距離を走るということとマッチしていたというようです。

この本の中で、村上春樹さんは小説を書くという行為は、瞬発力ではなく、持久力が必要で、書く体力を維持するという目的でも走っているというようなこと言っています。

作家というと、机に向かいこもりきりで執筆をするイメージを持っていましたが、特に物語を書くという事は動いている物語を体感しながら書くため、非常に体力を消耗するとの事。

やはり思考には体力が必要で、体力を維持するために何らかの運動する必然性があるのですね。

私は、元々は村上さんの物語を読む方ではなかったのですが、この一年で何冊か読む機会があり、村上さんの言葉の選び方の美しさ、そして説明の仕方や比喩の言葉の使い方の的確さ、ありありと目の前に情景が浮かぶ筆力の高さにとても惹かれています。

村上さんの書くものを読んでいると、言葉が的確で細やかで、いつか見たことがある情景や、いつか自分の心の中にも存在していたような気持ちはもちろん、自分の中にはない記憶や気持ちも、鮮やかに私の心に映し出されます。

この本の中で私が何よりも面白いと思ったのは、村上春樹さんが物語を書くということを決めた時のエピソード。
本当に突然のことだったそうで、ある日野球の試合を観戦中にふと小説を書きたいという衝動が湧き、その日から書き始めて物書きになったのだという。

自分に何が適していて何が適していないか、何が好きで何が得意なのかということを、村上さんは自然に浮かび上がってきた自分の衝動を、上手に掬い取れたということなのだと思います。

それまで前触れもなかった、ものを書くということについて、衝動的に思い立ち、そしてそこから物語を書き続けているということの凄さに恐れ入ります。
野球観戦をしながらふと湧いてきた衝動に身を任せなかったら、いまの「作家・村上春樹」はいなかったのだと思うと何か大きなものの力に感謝してしまいます。

村上さんとは比べようもありませんが、私にとってそれに近しいと思われる衝動というのは、踊ることでした。なぜ踊りたいと思ったかは自分でも分かりませんし、なぜ踊り続けていられるかというと、踊りたいと思い続けているからという他にありません。

考えてみると私は幼稚園児の頃から漠然と踊る人になりたいと思っていて、その思いがずっと変わらず、実現するチャンスを手繰り寄せてダンサーになったのだと思います。
小学校でバレエを始め、そして大学で社交ダンスと出会い、初めて人と組んで踊った時に「私にはこれなんじゃないか」という閃きのようなものが浮かんで、それ以来ずっと社交ダンスから逃れられていません。

何度もやめようと思ったし、やめるチャンスも幾度もあったけれども、なぜか社交ダンスから離れられずに今に至るという感じです。

私は人生で踊らないでいる期間のほうが短く、人生の大半を踊って過ごしてきましたので、踊ったり体を動かすということは私の人生私の中では当然あるいは必然のようなものになっています。

村上さんの書く物語のように、人の心に刺激や栄養や潤いを与えたりすることはできそうにないけれど、自分自身と自分のほんの少しの周囲の人と、ともにダンスを楽しんでいくことが私の希望です。

ABOUT ME
大内裕香
社交ダンス指導歴22年。社交ダンスを軸に、Zumba®︎や美ューティBodyWave®︎、そしてYogaのインストラクターをしています。 踊ること、特に人と一緒に空間を共有して身体を動かすことが大好きです。 一緒に、楽しい時間を過ごしたいです。